ジュースのみてえ事件


      「あっつい   あっつい」
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これは小学校1年生の頃の話。


私の実家は小高いところにある。
7歳の子供にとって学校から家までの道のりはとてつもなく長く辛いものに思えた。
ギラギラ光る太陽の熱はアスファルトでその威力を増し
より一層「歩いて帰宅する」気力と体力を奪い去った。
今歩けばたった20分程度の道のりを、2倍も3倍もかけていたのだから
大人に比べて2倍、3倍道中の冒険があったわけだ。


その日は暑かった。とにかく暑かった。
通学路を歩く黄色い帽子の子供2人。
元来怠け者の私たち、この日は特に「歩いて」帰ることが嫌だった。
ゆっくりゆっくり歩きながら、偶然自分たちの母親が車で通りかかって
拾って帰ってくれないかとか、そんなことばかり考えていた。
どうにかしてこの暑さと上り坂を回避できないものか。


 「あープール入りたいよお」
 「あっついよお」
 「ジュースのみてぇ」
 「アイス食べたい」
 「冷たいもの食べないと死んじゃう」
 「アイス!ジュース!」


ぎゃーぎゃーぎゃー。 
子供2人、ふらふらこんなこと叫びながら歩いていれば人は見過ごせないものか。
  「おら、これやるから。」
通りかかった工事現場のおっちゃんが、近寄ってきて差し出したのは200円。
一人100円。


私たちは呆然として遠ざかっていく軽トラックを見送っていた。
あまりのことでお礼を言うのも忘れていた。
かくしてピカピカのランドセルを背負った子供2人は水を得たわけだ。
都合のいいことに近くには駄菓子屋さんがある。
7歳の子供にとっては名札の裏に電話賃として潜める10円硬貨でさえ尊いものである。
100円もあればお菓子がどれだけ買えるだろう。
あんなにも拳に握り締める100円に輝きを感じたことはなかった。






その100円で私たちは何を購入したのか。

ジュースだったのか、アイスだったのか。
当時のジュースはまだ100円で購入できた。
が、アイスなら60円のものなら2人で3つは買える。
それともアイスとお菓子を組み合わせたのか。
もしくは悪知恵を働かせてそのお金で
「お母さん!死にそうだから迎えに来て!」
とレスキューコールを入れたのか。

実は、キラキラ100円硬貨を何に使ったか覚えていない。
覚えているのは100円を手渡されたところまで。
  
自分たちの文句たらたらに対して
見知らぬ強面のおっちゃんがお金を恵んでくれたことが可笑しくて
私たちの間では『ジュース飲みてえ事件』として
2人の共通の、しかも強烈な思い出として残ったのだ。







暑い日が続く。
特に手術室に手洗いで入ると蒸して暑くて。
術用ガウンを脱ぐと、手術着が背中に張り付いた。
休憩時にアイスを買ってボーっと外を眺めるのが最近の日課。
MOWが美味しい。ということに気がついたり。
さっぱりしたいときはスイカバー。



今日は pino をつまみながら 思い出した 
     『ジュースのみてえ事件』
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by 2pinoko | 2007-05-29 22:18 | つらつら。
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