虫の声がする。


人は死んだらどこへ行くのだろう。




縊死・絞殺・扼殺
切り取られた咽頭
溺死 
水と内部の空気で膨れ上がった肺
真っ赤な眼瞼結膜
レイプされ首を絞められた少女
無数のスタンガンの跡
裂けた肛門
毛細血管は破綻し赤く黒く
脳底


いつからこれらを凝視できるようになったのか。
私はモノを見ている。
組織を見ている。
生きた、若しくは死んだ組織を見ている。

残酷な事件だと、おぞましい事件だと思った。
思った、そしてそれだけだった。
私は彼、または彼女の生活を知らない。
知っているのは既に動かなくなったその躯だけ。
苦しみ、恐怖に死んでいったであろうその躯だけ。
だから私それを見ることができるのか。

感情なく、ただ見つめる。
学び取ろうとして見つめる。
いつからだっただろうか。













あの人が亡くなったと、その電話は告げた。


最後に会ったのほんの3週間前。

呼びかけると確かにこちらを見るのに
「見ていない」のだ。
外界の刺激に反応しただけ、生体だから。
朝になるときっと目を見開き
夜になると眠りにつく
それでも私を「見ていない」
私を認識していない、人だと認識していない、何も認識していない。
頭ではわかっているはずなのに、私はわからない。
だって彼女はわかっているかも知れない。聞いているかも知れない。見ているかもしれない。
だから話しかける、聞こえるように大きな声で。
その日にあったこと、外の話、家族のこと。
看護士さんがドアの影で涙を拭いているのが見えた。







人は死んだらどこへ行くのだろう。


意思を持たず感情もなくそこに転がる躯に魂がないのなら
彼女はもう何ヶ月も死んでいたのか。
私がただ見つめていた躯と同じなのだろうか。
違うのは、呼吸する細胞がまだ存在していたということ。
明るいを知らない。
痛いを知らない。
嬉しいを知らない。
悲しいを知らない。
喜びを知らない。
何も知らない、わからない。
そこに魂はあるのか、感じているのか。

生きているのか。



いや、彼女は生きていた。
私を見た。確かに見ていた。
意味って何だ。魂って何だ。生きるって何だ。




彼女の死を知り、私は同じようにそこに横たわる有機物を向こうに見ていた。

覚悟していた。
だから実感がわかないのか。
それとも私が鈍感になったのか。
人の死に鈍感になる。考えるだけで恐ろしい。
だけど今の私は同じだ。いつもと同じだ。
逝ってしまったその人の苦しみを思い、かわいそうだと思う。
思う、それだけ。
いつもと同じ。いともと同じ。







伝えたいこと連れて
私はいつのあなたにお別れを言いに行けばいいだろう。
あなたはどこにいるのだろう。

あなたに会ったら わかるのだろうか。
私は気がつくのだろうか。
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by 2pinoko | 2006-05-31 01:09 | つらつら。
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